……いやでも待て待て。
そもそもわたしは今、本当に祟りをかけられたのかな。
もしかして、この神様とやらがうまい具合にかわいいわたしを丸め込むための嘘だとも考えられるような。
という、わたしの心の声を聞きでもしたんだろうか、その人は勝手にごそごそわたしのカバンを探り、「ちょ、何してんの!」とわたしが怒るのも無視して中からあるものを取り出した。
「いいものがあった。ほら、確認してみろ」
「え?」
見せられたのは愛用の鏡。前に紗弥に好き勝手デコられたキュートなそれが、わたしに向けられていた。
小さな四角に自分がいる。それを見ていたところに、その人が細い指で、前髪を掻きあげた。
自分の顔が、一瞬で青くなったのは明白だ。
血の気のないほっぺた。それからまんまるく開いた目。
そしてその上の、さっきキスをされたおでこの、中心。
そこはぼうっと淡く、光っている。
「祟りの印だ。その光自体はやがて消えるから気にするな」
気にするわ……。
なんてことだ。おでこが光ってるなんてタダゴトじゃないよ。
わたし、本当に、祟られてしまったらしい。
「うん、落ち込んでいるな」
うな垂れた頭上から声が降る。のろのろ視線だけを上げて睨むと、飄々とした綺麗な顔が見下ろしていた。
わたしは深く息を吐いて、「誰のせいだ!」と怒鳴りたいのを必死で抑える。
「……お仕事って、つまり何をするんですか」
「この神社に参拝に来る者たちの願いを叶えるのが俺の仕事」
「わたし人の願いなんて叶えられませんけど」
「できることはどこかにある。あとは、そうだな、境内の掃除とか、補修とか、草取りとか」
「雑用も!?」
くそう。なんかもう本当に、遊ばれているというか、手のひらで転がされているというか。
わたしには、どんな権限も、ないらしいというか。