「言っただろうが、神であると」


整った眉毛が少し寄せられたのを見て、気が遠くなりそうになった。


ああ、何この状況。

どうすればいい? どうするのが正解?

1回家に帰るべき? とりあえず持ち帰って考えるべき?

うん、家に帰りたい。帰って寝てすべてを忘れたい。


「それに見ればわかるだろう。人がこれほど美しいものか」

「そう言われても……てか、見えてていんですか? 見えるもんですか、神様」

「見えるようにしている。見えなくもできるぞ」


ふわっと一瞬姿が消えて、わたしが口をぱくぱくさせている間にまたふわっと現れた。

「どうだ」と得意気に言ってるけど、こっちが気絶しそうなのに気づけ。


「ほ、ほんと、に……」


だって。

こんなときの対応の仕方、学校で習った覚えはないよ。


神様に、遭遇した場合。


「あ、まさかお前、この俺を疑っていたのか」

「う、疑ってたわけじゃ……あの、その……」

「ふうん……神の言葉を信じぬとは」

「信じてなくもないっていうかそういうわけじゃなくて驚いただけっていうか」

「まったく罰当たりな娘だ」


白目を向くわたし。神様直々に「罰当たり」頂くとは、なにこれ、とりあえず喜んでおくべきかしら。

天罰をくだされるところまで想像して、想像だけで、心臓が止まりかけて。

だけど、そんなわたしに反して、その人は笑っていた。

ふっと、吐息みたいな小さな笑いが乾いた空気に響く。


「まあ、信じられんのも無理はないな。この平成の世だ、神など崇める者のが少ない」

「そ、そんな、ことは……」

「ないとは言えんだろう。構わない、仕方のないことだ」


ふい、とその人が向いた視線の先。

あまりにも不自然にすっかり晴れた青空の、どこか遠くの何もない一点。


「時代の流れだ。もう人は、神などいなくても、自らの力で生きていけるようになった」


つぶやきは、独り言みたいだった。

ざあっとひとつ風が吹く中、柔らかな表情だけが、そこにあった。