なんて、答えるか。

ちょっと楽しみ、なんて思うのは意地悪かな。子どもみたいな屁理屈を言うか、冷静に大人な対応に変えられるか。


その人の答えを、どう返ってくるかと考えながら待っていた。

だけど本当に返ったお返事は、そのどれとも、違っていた。


「そんなことでいいのか」


ちょっと驚いたみたいに目を丸くしたその人は、上品な動作で立ち上がると、ぽかんと見上げるわたしを放ってどしゃぶりの空をゆるりと覗く。


「千世が願わずともこの雨はいずれ止むが……まあ、お前がそう望むのなら、俺が否定する道理もない」

「あ、あの……」


男の人の目が、すっとわたしに向いた。

それがゆっくりと細められるのを、わたしはただ、ただ、見ていた。


「千世、お前の願い、聞き届けた」



──目を、閉じたのは一瞬だ。

まぶしさに閉じた目を、開いた先に、わたしが見たのは。

男の人の、胸の前に置かた両手からあふれる、とても柔らかな、光。


「 この雨が、止みますように 」


声は、穏やかに。音色みたいに、空気に紛れて。

光は、その言葉を乗せるように、線を描いて空に昇り、消えていった。