「千世」
花火の、終わりの時間が近づいた頃、常葉がわたしを呼んだ。
顔を上げたら、花火の色を映した柔らかな表情が見えた。
「俺の本当の仕事は、夢を叶えることではなく、皆の夢を守ることなのだ。叶えている途中の夢、叶えた夢、そして叶わなかった夢。
持ち主の中で、一瞬であれ長きであれ、確かに輝いていたそれが、いつまでも永劫光輝き、持ち主の行く道を照らすように、俺は見守り続けるのだ」
最後の花火が、これまでのどれよりも大きく、綺麗に、花を咲かせた。
小さな火の粉がすべて落ちきったとき、下から、大きな歓声と拍手が響いた。
しんと静かになった夜空に、輝くのは、いくつもの星。
「お前が集めてくれた願いも、すべて、大切に守り続けよう」
下を見た。神社の1ヵ所が、ぼんやりと色とりどりに光っている。
あれは灯り? 違う、あんな色のものはなかった。
そっか。あれは。みんなが短冊に書いてくれた、無数の願い。
「皆の願いは、俺が聞き届けた」
ひとつ、ふたつ。
それぞれ色の違った光が、空に向かってのぼっていく。
ゆっくりと、いくつか、それが空を舞ったそのあとで。
強く風が吹いた。下からの風だ。
──一瞬、目を閉じて、そしてもう一度開けたとき。
わたしの目の前を、光が大きな塊になって、一斉に線を描いて飛んでいた。
「常葉!」
「お前も見届けろ千世。これが皆の夢だ。大切な、心からの願いなのだ」
ぎゅっと着物を掴みながら、それでもわたしの目は光を見ていた。
まばたきも、息すら忘れて。
たくさんの光の筋が空へ舞いあがるのを、わたしは見ていた。