「大和」


花火の音の中、常葉が大和を呼んだ。


「何?」

「少しの間、千世を借りてもいいか?」


大和がわたしを見た。そして小さく笑って。


「大事に扱ってくれるのなら、いいよ」

「わかった」


なんだろうと、思った瞬間だ。わたしは常葉に抱き抱えられていた。前に担がれたときみたいじゃなく、今度は確かに、腕の中に。


「ちょ、常葉! え!?」

「いくぞ千世」

「うわあ!」


ふわっと体が浮いて、咄嗟に常葉の着物にしがみついた。ぎゅっと目を瞑って、感じるのは、常葉の体温と風の感触だけ。

花火の音が大きくなった気がした。みんなのざわめきは、反対に遠く、聞こえなくなっていく。

空を飛んでいるのは気づいていた。前に、屋根の上にのぼったのとは違う。もっと、ずっと高く、星に近い場所へ。



「目を開けろ、千世」


耳のすぐ近くで声がして、ゆっくりと、瞼を開けた。

その瞬間、目に映ったのは、視界いっぱいに広がった大きな花火。

目の前でそれが弾けていた。火の粉が、ゆっくりと下に落ちるのも見えていた。


声も出せずに驚いた。こんなの、見たこともない。


「これほど近くで見ることもなかなかないだろう。よく目に焼き付けておけ」

「うん……」


花火は、次々と打ち上げられて、わたしたちの目の前で鮮やかに開いた。

夜空に光の線を描いて、そして大きく、花開く。

それは、夢みたいな光景だった。