「常葉さん!」
呼んだのは、短冊を手伝っていた大和の声だった。常葉を見つけて、慌ててこっちに来たみたいだ。
「大和じゃないか! また会えたな。会いたかった。俺はお前が好きだ」
「あ、ありがとう。今日はよく告白される日だな……」
困ったように眉を下げながら、大和はあるものを常葉に渡した。三波屋の新作で、今日ここで売っている焼きまんじゅうだ。
「常葉さんの好きな店のだ。売切れる前に買っておいた」
「ああ、ありがとう大和。お前はなんて良い奴だ」
「お礼を言うのは俺の方だよ。常葉さん、ありがとう。俺もあなたが好きだよ」
大和が言うと、常葉はおまんじゅうを頬張りながら大和を抱き締めていた。
それを横目に見ていたわたしの、出かけていたはずの涙はあっという間に引っ込み。やっぱり大和贔屓なんだよなあこいつ、とちょっとムッとしながら、男二人の抱擁から目を背け空を見上げた。
いつの間にか、すっかり真っ暗になっている。
「ねえ千世!」
短冊を付けていた紗弥がわたしを呼んだ。
「もうそろそろ時間じゃない? ……って、その人もしかして」
紗弥が、そう言いかけたときだ。
──ドオオン……!!
大きな音がして、空がパアッと明るくなった。
あたりから沸き起こる、拍手と盛大な歓声。
音楽が鳴りやんで、代わりにお腹に響く大きな音がいくつも鳴り響いた。
空が何色にも染まる。真っ暗な中に、大きな大きな花が咲く。
それは、とてもとても大きな、打ち上げ花火。
「すごい……」
「花火か。そうか、今日だったんだな」
「花火の日とお祭りを合わせたんだよ。昔は一緒にやってたんでしょ」
「ああ。本当に、あのときのままだ」
誰もが手を止めて空を見ていた。
花火は途切れることなく空にのぼって、夜空も、そしてそれを見ている人たちのことも、色とりどりに彩って消える。