「……常葉」
「見ているよ、千世。ずっと見ていた」
「みんな笑顔だよ」
「そうだな。とても楽しそうだ。皆、心から笑っている」
そう言った横顔を、わたしは見つめていた。
きっと気づいていないんだろうなと思いながら。
みんなの笑っている姿を見ている自分が、誰より一番、うれしそうなことに。
いつか見た夢を思い出す。常葉の思い出なんだと、すぐに気がついた夢。
あの夢の中でも、常葉は今と同じ顔で笑っていた。お祭りを楽しむ人たちを見つめて、その中の誰よりうれしそうに笑っていたんだ。
誰かに楽しんでもらいたくて。誰かに喜んでもらいたくて。誰かの笑顔がうれしくて。
あのときも……あのときと同じように、今も、笑っている。
「千世」
「何?」
「ありがとう」
振り向いた常葉と、視線が真っ直ぐ重なった。
琥珀の瞳は、初めて会った日と同じに、今も澄んで綺麗なまま。
「またこの風景を見られるとは思わなかった。お前のおかげだな」
「……当然だよ。わたしは、神様のお手伝いだから。願いを叶えるのなんて、あたりまえ」
「そうだったな。よくやった、千世」
常葉がそう言って頭を撫でるから、わたしは慌てて顔を伏せた。
危なかった。また泣くところだった。今日は、泣かないって、決めているのに。