お社に立って、わたしはじっとその風景を見ていた。
みんなが楽しめる屋台に、気分が盛り上がる音楽。願いごとのたくさん付いた笹飾りと、浴衣の姿の人たち。
「…………」
笑い声が響く。心から。楽しそうに。
隣には大好きな人がいて、その人と他愛もないおしゃべりをしながら、夜が来るのを待って、時々空を見上げる。
「……常葉」
大人も子どもも願いごとを短冊に託す。
小さな願いも、大きな夢も。いつか叶いますようにって願いを込めて、1枚の短冊に言葉を乗せる。
「ねえ常葉」
たくさんの人がここにいる。きっと誰ひとり同じ心は持っていないのに、それでも同じ気持ちで、この場所に集まっている。
笑ってる。みんな。笑顔でいる。こんなにも。
『俺は、皆の笑顔が見たいよ』
見てよ。これが、あんたが見たかったものなんでしょ。
『うれしそうに楽しそうに、笑っている姿が見たい』
自分のことなんて放っておいて、あんたが一番に見たかったもの。
この町の人たちの笑顔。とても楽しそうに笑っている顔。
「見て、常葉」
「ああ、見ている」
とても小さな声がした。ふわりと、優しい花のような香りも。
銀色の髪と、お気に入りの羽織を揺らして、常葉が隣に立っていた。