少しずつ涼しくなってきたけど、まだ、あたりは明るい時刻。午後の5時前。

7時から始まる花火に合わせて、祭りの開始をこの時間に決めた。


おいしい匂いはもうそこら中に漂っている。いつでも始められる。あとは、人。


時計を見た。あと数分で5時になる。

わたしは紗弥と顔を見合わせた。さっきからずっと心臓がドキドキしてて、変な汗ばかり掻いている。


「もうすぐ5時だよ、紗弥」

「うん、そうだね」

「人……本当に来るかなあ。誰も来なかったらどうしよ」

「大丈夫だって。ほら、浴衣姿の人、何人も見かけたし」

「あれって花火のお客さんでしょ」

「まあねえ」


だめだ。やっぱり不安がぬぐえない。緊張もとっくに頂点越えてて、今にも鼻血を出して倒れそうな感じ。なんか、めまいもしてきた。

来るかな。お願いだから来て。頼むから来い。なんでもおごるから。


時計を見る。そろそろ人が来ててもいい頃だけど、神社は、しんと静かなまま。


「あと、1分」


全員が、鳥居の向こうを見つめていた。


町の景色を見下ろす風景。動かないそれを、じっと───



「ちせちゃん!!」