「おーい紗弥ちゃん! もう1本残ってるんだけどー」
石段の下から、笹を持ってきてくれたおっちゃんの声がした。
わたしと紗弥は顔を見合わせて、おんなじような引きつった苦笑いを浮かべた。さっきの重みで痛めた肩はまだ少しも治っていない。
「またやるのか」
「やるしかないよね」
「おーい、紗弥ちゃーん」
「はいはい今行くー!」
紗弥が、慌てて石段を下りて行った。
わたしもそれを追いかけるけど、ふと、鳥居の前で後ろを振り返った。
そこにあるのは静かなお社。誰も、いない。
「……常葉」
ここ最近、ずっと常葉は現れていない。
誰もいないとき、呼んでみるけど、それでも一度もわたしの前に出てきてはくれなかった。
「…………」
もしかして、という思いが頭を掠める。
もしかして……もう、消えちゃったんじゃないか、って。
……いや、そんなはずない。絶対に常葉はまだこの神社にいる。
「常葉、もうちょっと待ってて」
わたし、必ずあんたに素敵なものを見せてあげるから。
だから待ってて。昼寝でもしてて。
「わたしが、常葉の願いを叶えるまで」
お社に呟いて、それから石段を下りて行った。トラックに積まれた笹は、さっきのよりも、また少し大きい。