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「あ、お天気雨」
商店街へ向かう途中、ぽんと鼻の頭に何かが当たって顔を上げた。
雨かなと思ったら空は晴れている。でもやっぱり雨だった。お天気雨。狐の嫁入りだ。
「やば、濡れちゃう」
突然のことに、慌てて腕に抱えていた紙の束をカバンで隠した。せっかく刷り上がったばかりなのに、貼りもせずにふやけられたらさすがにへこむ。
七夕祭りの開催を知らせる大事なポスターができあがったのは、今日の朝。
紗弥の調理部仲間の、絵が得意な子に描いてもらって、実はこの商店街の偉い人だったという三波屋のおばちゃんの権力を使い、近くの印刷屋さんに超低料金で刷ってもらった。
もう日にちはないけど、できるだけたくさんの人にお祭りのことを知ってもらえるように。そうして、できるだけたくさんの人に、遊びに来てもらえるように。
七夕祭りをやろうと決めたとき、バカにされるかなって少なからず思ってた。
時間はないのに現時点では計画ゼロ。わたしひとりの力でどうにかなるもんでもないし、あまりにも無謀すぎるだろって自分でも思ってたから。
でも、最初にそれを伝えた、紗弥の反応はまったく違っていた。
「千世からそんなに楽しそうな提案するなんてビックリした! ふつうそう言うのはあたしからでしょ!」
電話した途端に即集合して、あっという間に作戦会議が開始。発想力も行動力もある紗弥は、こういうとき、本当に心強い。
何が必要なのか考えて、それをどうやって確保するかを考えた。
自分の技量の無さは知ってるし、当然お金もないし、知り合いも少ない。
そんな中でどうやったら思い描くものをつくれるのか。
無い知恵をしぼってひとつひとつ、どうにかできる道を探していった。