少し顔を上げると、目の前で常葉が首を傾げていた。


「俺の願いごと?」

「うん」


ずずっと鼻をすすって息を吐いた。目の端にたまった涙は、常葉がすくってくれた。


「願いごとか」

「常葉にもあるでしょ。何か、願うこと」

「……そうだな」


常葉は考えるしぐさをして、それから小さく笑った。

ゆっくり動いた瞳は、今はほとんど何もない、神社の中を見渡しているみたいだった。


「俺の願いは、この町の人々が、笑って生きていることだ」


常葉が、そう呟く。


「俺は、皆の笑顔が見たいよ。うれしそうに楽しそうに、笑っている姿が見たい」




常葉は、もう夢は根付いてるって言ってくれたけど、それでもわたしはまだそれが、なんだか自分でわかっていない。

何ができるんだろうって、ずっと考えていて。それでもよく思い浮かばなくて。


でも、きっと、どこかにある。だからそれが何かはわからなくても、精一杯、今はやるしかない。


それに、確かなことはもう、たったひとつだけここにあるんだ。


わたしが何をやりたいか。自分のどんな姿を一番に望んでいるか。

今はそれを目印に、走っていくしかないから。