「……常葉」


なんであんたはそんなにわたしに期待するの。

わたしは、あんたが思ってくれるほどにはうまくはこなせていないのに。


「常葉」


あんたが、どれだけ背中を押してくれたって、ほんと、まぬけで、一歩なんて踏み出せなくて、何ができるかもわかんないまんま。


だからまだ、ちゃんと見てて。

大きなくすのきの幹から、自分だけの枝に向かっていけるように。花が咲くのを、望めるように。

まだここでのんびり見ててよ。


「わたしが、いるよ」


わたしも、あんたの側にいるから。


「千世……」

「わたしがいる。言ったじゃん、わたしは長生きするからって。毎日ここに来るよ。常葉の好きなおみやげ持って」

「…………」

「神社が遠くに引っ越してもね、自転車こいで頑張るから。高校出たら免許も取れるし、常葉も一緒に出かけられるよ。車とかバイク乗ってみたいでしょ。わたし大人になってもいつだって会いに来るから。だから……」


だから消えたりしない。

人の心で、神様が生きているのなら。わたしがいくらでもお賽銭投げるから。

消えたりするはずないよ。常葉はこれからも、この町を。きっとあんたが大好きなこの町の人たちを。

のんびりと、おまんじゅうでも食べながら、見守っていられるはずなんだから。


だから───



「ああ、千世」


常葉が、わたしの頭をなでた。


「そうだな。お前がいた」


とてもうれしそうに、笑いながら。