すると、常葉がふっと笑って、わたしにちょいちょいと手招きをした。
おそるおそる、1歩2歩と近づいて常葉のすぐ前に立つと、常葉の人差し指がわたしのおでこにこつんと触れた。
「あれは、まじないをかけたのだ」
「おまじない……」
「ああ、そうだ」
指が離れる。わたしは無意識に、自分のおでこに両手をあてた。
じんわりと体温の熱いそこ。あの日確かに、何かが入ってきた気がした場所。
「お前が、迷わず自らの道を選ぶことができるようにと。お前の心にまじないをかけた」
綺麗な色の瞳に、わたしが映っていて。綺麗だなあなんて、今さらであたりまえなことを思った。
そこに映る自分は心底汚いのに、あんたからは、わたしはどんなふうに見えてるの。
「俺がお前にできることなんて、たったそれくらいのことだ」
「……うそつき。ひどい。だましてたんだな」
「だまされるお前が悪いさ。お前は素直でまっすぐな阿呆だ」
かけられたのは、祟りという爆弾みたいなものだと思っていた。ムカついて、頭抱えて、どうしたものかとイヤイヤ次の日もこの神社に来た。
性格悪い神様に、変な仕事を押しつけられて、なんでわたしがこんな目にって、泣きたくなって途方に暮れて、ふざけんなって、思ってた。
今も思ってる。ずっと思ってる。
神様のくせに性格悪いし、めんどくさいし、ナルシスト気味なの腹立つし、平気でわたしの悪口言うし。
でも、そう言えば、そう。
『夢のないお前のために、お前が夢とは何かを見つけられるように手伝わせてやるのだ』
やり方意味わかんないし、すごく伝わりづらいけど。
『夢を持て、千世』
常葉は最初からずっと、わたしの背中を押していた。
夢がないなんて、つまらないことを言って、前も後ろも向けずに立ち尽くしているわたしが、自分の道を、自分の力で見つけられるように。
最初に出会ったときから、ずっと。