「常葉! 常葉、どこにいるの!!」


通るなって言われている参道の真ん中、そこに立って、大声で名前を呼んだ。

今日もお社に常葉はいない。こんなときに、またどこかに行ってるんだろうか。


「常葉っ!!」

「なんだ騒がしい」

「うおぅっ!」


振り返ると背後に常葉が立っていた。いつもどおりの、綺麗な澄まし顔で見下ろしている。


「千世、そこは俺の通り道だから通るなと言ってあるだろうが」

「ねえ常葉。あのさ」

「なんだ、慌てて走ってきて。犬にでも追われていたか」

「常葉、この神社が、なくなっちゃうって」


息が切れて苦しくて、それでも必死に声を吐き出す。早く伝えてどうにかしなきゃ。

こんな、大変なこと。なのに。


「そうか」


常葉はひとつも表情を変えなかった。

涼しげなまま、カランと下駄の音を鳴らして、日陰になるお社へ腰かけた。


「知っている」


常葉はそう、呟いた。


「……知ってる、って」

「お前には言っていなかったか」

「何、それ」

「もう随分前から決まっていたことだ。秋にはこの社はなくなる」

「そんな……」


うそでしょ。秋なんてもうあっという間に来ちゃうよ。

本当になくなるの? この神社、お社も、手水舎も、鳥居もくすのきも何ひとつ壊されて、別のものができて。

毎日あたりまえみたいに来てたのに。それが全部なくなって。


そんな風になってしまうこと、常葉は、ずっと知ってたの?