「……ぜんぶ」
全部、壊して、住宅街をつくるって。
それってつまり、あの神社をなくして、その場所に、違うものを建てるってことで。
……常葉のいるあの神社が、もうなくなっちゃうってことで。
「それ、ほんとですか……」
「え? 神社のこと? うん、決まったのは随分前じゃないかしら。地元民への説明会もあったしね」
ちょっと待ってよ。
じゃあ。それって。それなら。
神社がなくなったら、常葉はどうなっちゃうっていうの?
神社は神様の家だから、常葉には神社がなくちゃいけなくて。それなのに壊すっていうことは、常葉の家が、なくなっちゃうってことで。
……そうしたら、常葉は。
「…………」
今もああして、人がこなくなった神社で、それでもお社に座ってのんびりしながら、誰かが願いごとをするのを待っているのに。
今も確かにあそこにいるのに。
あの神社は、常葉の居場所なのに。
なくすなんて、そんなこと。
「ねえ、ほんと真っ青よ。ちょっと休んでいく?」
「だい、じょうぶです。すいません、わたし行きます」
目も合わせずにお礼を言って、お店を飛び出した。
頭クラクラしてうまく走れないけど、それでも足を止めずに向かう場所は、もちろんひとつしかなかった。