「これは……」
「え? えっと……」
あれ、まずいことしたかしら。もしかして、おまんじゅう嫌いだったかな。
よかれと思ってしたことが逆効果?
そんなあほな。泣いていいですか?
「娘」
「は、はい?」
「これは、もしかして三波屋のものか」
唐突に、男の人が低い声で言った。
わたしは「はい」とうわずった声でとりあえず答える。
「商店街の三波屋の、おまんじゅう、ですけど」
「それを、俺にくれるのか」
なんなんだ、と思いつつこくりと頷くと、突如、男の人の表情がぱあっと華やいだ。
そして、袋を持っていたわたしの手を、ぎゅっと強く握る。
「ヒッ!」
「ありがとう、人の娘。お前はなんていい奴だ。俺は三波屋の饅頭が大好物なんだ!」
「へっ!? あ、そうですか……」
なに、なんかよくわかんないけど、喜んでくれてる?
それなら……いいけど。てか、なぜ手まで握る……。
「昨今の人の世は冷め切っていると言うが、まだ希望はあるものだなあ」
男の人は袋を受け取ると、そこからおまんじゅうを取り出しておいしそうに食べ始めた。
表情を見る限り本当に好きみたい。
この人、綺麗だけど笑うとなんかかわいくなるなあ。ちょっとびっくりしたけど、喜んでもらえてなにより。
わたしも横目で眺めつつ、自分の分を、ぱくりと頬張る。