「はい。今日のあんこはいい出来だから、きっといつも以上においしいよ」

「ほんとですか! 楽しみだなあ」


常葉にも教えてやろうかな。きっと年甲斐もなく、気持ち悪いくらいにはしゃぐに違いない。

受け取った紙袋はとても軽いけど、それは重さ以上に貴重なもの。これを大事に分け合って食べるんだ。何せ少ないお小遣いをはたいて買っているおやつなのだから。


「……どうかしました?」


ふと見ると、にこやかだったおばちゃんの表情がどうしてか少し変わっていた。目尻を下げて、それはなんだか悲しそうな。

どうしたんだろ。もしかしてわたしの喜び方がおかしくて、アホだと憐れに思われたのかな。


「あ、ごめんね。いやね、千世ちゃんがこれを買っていってくれるの見ると、ちょっと寂しくなっちゃって」

「寂しく?」

「うん、千世ちゃんいつもそれ買ってってくれるじゃない。実はもうひとり、馴染みのお客さんでそのおまんじゅうばかり買っていってくれる人がいたんだけど、ちょっと前に亡くなっちゃってね」


おばちゃんの声が少し小さくなった。

亡くなったっていうのは、もしかして。


「商店街の裏にある神社に、お供えするために買ってくれてたのよ」

「お供え……」


安乃さんのことだと気づいた。

安乃さんも、神社へ来るときにはいつも、常葉の好きなこのおまんじゅうを持ってきてくれていた。


たぶん常葉は、安乃さんにこれを貰って好きになったんだと思う。

きっと、もっと持ってきてもらえるように変なアプローチもしたんだろう。安乃さんは優しいから、それでいつも、このおまんじゅうを持ってきてくれるようになった。