「て言うかさあ、神崎くん来てたなら教えてよね」


昨日の大雨が嘘みたいに晴れた空の下。

おいしいたい焼きを頬張りながら紗弥が言う。わたしもおんなじように口をもごもごさせて「なんでさ」とプチ反論。


「だって会いたいんだもん。サインもらう」

「サインって言ってもさ、大和もうプロにならないよ?」

「だからってあたしがファンなのには変わりないし。ぶっちゃけ顔が好きだし。絶対サインと写真ほしい!」

「写真まで!」


大和は絶対嫌がるだろなあと、向けられたカメラから逃げている姿を想像しつつ、たいのお腹をかじった。

今日買ったのはチーズ入りあんこ。最近はこれが一番お気に入りだ。あったかいあんこととろとろのチーズが相性バッチリなのである。


「しかし真夏に外でたい焼きってのも辛いねえ」


紗弥が唇の端のクリームをぺろりと舐めた。わたしは、しっぽだけになったたい焼きを一気にぱくりと食べてしまう。よくよく考えるとわりとむごい光景。


「なら別の買えばいいのに」

「だっておいしいもん。あたしは甘くておいしいものに目がないのだ」

「知ってるう」


実に人畜無害な会話をしているわたしと紗弥。そんなわたしたちが夏休みにも関わらずカッチリ制服を着込んでいるわけは、ふたりそろって補習を受けてきたせいだ。

期末テストでふたりとも数学と英語で赤点を取り、ただ今それの制裁を無事に終えたことろ。