「……大和っ」
大和を見つけたのは、昨日見つけたのと同じ橋の上だった。
先に戻ってるって言ったくせに、家には帰らずにぼうっと川を眺めている。
呼ぶと、奥二重の細い目がこっちを向いた。雲が通って、あたりが急に陰になった。
大和がひとつ、まばたきをする。
「……千世。どうしたの」
「どうしたのじゃないよバカ」
「なんか、泣きそうな顔してるけど」
「ふざけんな。それはわたしじゃなくて、あんたが」
言葉が詰まった。涙が出そうになって。
でも泣いている場合じゃないから、必死で呑み込んだ。それでもぼやける視界には、気づかない振り。
「……聞いた。ケガして、野球できなくなったって」
大和が少し、驚いた顔をした。でも、ほんの少しだった。
「そうか。本当は、直接言いに来たんだけど、言えなくて悪かった」
「悪かったって、謝ることじゃないじゃん。そんなのでわたしが怒ると思ってんの?」
「怒るだろ千世は。秘密ごと作ると、すぐに大声出す」
大和は笑った。とてもへたくそな顔だった。
わたしは笑えない。怒れもしない。
泣くのを堪えて、ひたすら奥歯を噛んでいるだけ。
「……ごめんな千世、俺、夢を叶えられなくなった」
「…………」
「すごいかっこ悪いよな……プロになるなんて言っておいて、こんなことであっさり夢、諦めなきゃいけないなんて」
「そんなこと……」
「何にもなくなった。それだけだったから。それだけ目指して、歩いてきたから」
「大和」
「ねえ、千世、どうしたらいい」
俯いた顔からしずくが落ちる。それは綺麗に、光って消える。
「どうしたらいい。俺は、もう、歩けない」