常葉にはわかんないんだ。
どれだけたくさんの夢を知ってたって、常葉は、神様なんだから。
わたしたちとは違うんだから。
大きな夢を、諦めた大和が、その言葉にどれだけ傷ついたのかって。わかんないんだ、常葉には。
「……ねえ常葉、どうにかなんないの」
「……どうにか?」
「あんた、夢を叶える神様でしょ。ねえ、大和の夢、叶えてあげてよ」
おでこの汗が目に入って沁みた。体中汗だくで、首がべたべたしていて気持ち悪い。
なのに目の前の神様は汗ひとつ掻かずに、じっと、顔色ひとつ変えないままでわたしを見ている。
「お願いだから叶えてよ! 大和の、大事な夢なんだって!」
「…………」
「ねえ、常葉。お願い」
「無理だ」
それは静かな、声。
もしかして気のせいだったんじゃないかって、思うくらいにささやかな。でも確かに、聞こえていた。
「大和の夢は、叶えられない」
そんな、ことって。
「なんで……」
「ほんの僅かでも、可能性があれば叶えられる。だが大和の夢は、完全に絶たれてしまっている。そのような願いは、俺でももう、道を繋ぐことはできない」
「二度と……?」
「ああ。二度と戻らない」
ぽかりと、小さな穴が開いた。
体の中心から、ゆっくりと何かが抜けていくみたいで。もう苛立ちはしないし、悲しくもないけど、大事なものがどこかに行っちゃったような。
でもわたしのは、まだとても小さな穴。
これがもし、もっとずっと大きかったら、一体どうなっちゃうんだろ。
抱えていたものが大きいほど、穴も大きくて、出て行った部分もとても多くて。
きっと、空っぽなのにぐちゃぐちゃな、ひどい心の中。
「……っ!」
行って、どうにかなるものでもないなんてわかってる。
それでも走ったのはそうするしかなかったからだ。
何ができるなんて考えもしなかったけれど、でも、大和がいない場所でひとりで泣くよりはずっといいような気がして。
走って、幼なじみを追いかけた。