「どうかしたのか」


ハッとして振り向くと、常葉が自分のひざに頬杖を突いてわたしを見ていた。


「常葉……大和が」

「大和がどうした」

「大和が、ケガして……野球できなくなったって」


言葉にしたら、あまりにも簡単すぎて可笑しくなる。

心の中のもんだって、そんなふうに簡単に片付けられたらいいのに。複雑すぎて、言葉にできないもんばっかで。


「そうか。ケガが原因だったのか」


常葉が、足を組み替えて頬杖を突き直した。


「……え?」

「大和の夢が叶わぬものになっていた理由、なぜだろうと思っていた」


そうして揺れた髪を、わたしはまばたきもしないで見ている。

何かが大きく、頭ん中で鳴った気がする。


「……あんた、知ってたの?」

「ん?」

「大和の夢が叶わないって、常葉は、知ってたの?」


問いかけると、常葉は静かに頷いた。


「見ればわかる。大和の進む道は途切れていた」

「ふ、ざけんなっ!!」


琥珀の瞳が見上げる。ひとつも表情を崩さないまま。

わたしは唇を噛んで。ぎゅっと、両手を握りしめる。


「あんた、知ってて大和にあんなこと言ったの?」

「あんなこととは?」

「大きな夢があるとか、夢を持ってる人が好きとか。もう叶わないの知ってて!」

「嘘は何も言っていない」


ぐっと、のどの奥で息を止めた。

言い返さなかったのは、言い返せなかったからじゃなく、何を言ったってムダだと思ったから。