電話口の紗弥の雰囲気は、かなり慌てた様子だった。その上、話題はなんともタイムリーに、大和のこと。


「何、大和がどうしたって?」

『やばいんだって。地方大会の決勝の次の日に、右ひじ大ケガしたらしいよ』

「……は? 大ケガ?」

『うん。相当ひどくて、選手生命絶たれたってうわさだよ』


なにそれ、どういこと? どういう意味?

大ケガして、選手生命絶たれたって……それって、つまり、野球ができなくなったってこと?


「うそでしょ、そんなの」

『本当みたい。甲子園も、当然出られないって。かなりの注目選手だったから、結構いろんなとこで騒ぎになってるっぽい』

「なに、ちょっと……ほんとに」


耳鳴りがした。紗弥の声がだんだん遠くなっていくみたい。すぐ側で聞こえているのに、よく届かなくて。


だって。そんなことって。

大和が、野球を、できなくなったなんて。

あるわけないじゃん。


『千世のところ、神崎くんから連絡来てないの? あたし、千世なら本人から話聞いてると思って、電話してみたんだけど』

「聞いて……ない」

『そうなんだ……ごめん、突然電話しちゃって。かなり驚いたと、思うんだけど……』

「……ううん、教えてくれて、ありがと」


電話を切って、ケータイを閉じた。

急に静かになった場所で、じっと立ち尽くしたまま、呆然ってたぶん、こんな感じで。

頭ん中真っ白で。何も考えられなくて。


でも、少しずつ頭動いてきてから、ふつふつとわき上がるのは、どうしようもない苛立ち。


「……あの、バカっ」


なんでこんな大事なこと、言わずにいたの。

部活が休みってうそ? あのサポーター、大ケガ隠してたの?

何しにわたしのとこ来たの。他にはどこにも行けなかったんじゃないの。


誰より苦しかったくせに。そのくせ、きっと、誰の前でだって泣けなかったくせに。


何もないとか、言って。


何もなくないじゃん。あんたにとって、何より大切なものの話なのに。

なんでわたしに話してくれなかったの。


「嫌んなる……!」


なんで、わたし、気づいてあげられなかったの。