「……大きな、夢」
「ああ。長いな、その夢を抱いて。幼い頃から持っているのだろう。ここまでお前を真っ直ぐに引っ張ってきた、揺るぎなく、そして強い夢だ」
「…………」
「見事なものだな、大和。俺は夢を持っている人間がとても好きだ」
なるほどどおりで。大和のことを気に入っているわけだと、三波屋のおまんじゅうを見せたときみたいに満面で笑う常葉を見て納得した。
大和の夢は、とても確かで、大きい。
だって豆つぶみたいに小さなときから変わらないんだ。プロ野球選手になるって言う一途な夢。
小さな子どもが、叶うはずない大きな望みを持つのとは違う。大和は確かに一歩ずつ、その夢に向かって進んでいた。
今年も甲子園出場が決まった。優勝だって狙えるって言われている。
また近づく。大きな夢。真っ直ぐに、大和が歩んでいく道。
わたしは、広いグラウンドの中で、たったひとりで前だけ見つめて歩いていく大和のことが。
とても遠く思えていたんだけれど。その背中を見るたびに、自分が小さく思えていたんだけれど。
それでもわたしは、マウンドに立つ大和を見るのが、とても、大好きで。
なのに。
「大和? どうしたの?」
「……千世、ごめん」
突然、大和が言ったのはそんなこと。なんのことかなんて全然わからない。
「ごめん」
「何が?」
「……俺は」
唇の動きが止まって、そのあとに吐き出されるのは小さな息だけ。
何を言おうとしてるのか必死で探そうとして、でも見当たらなかった。わかったことなんて、大和が見たこともないような顔をしているってこと。
真っ青で、強張って、マウンドの上にいるときとは、まったく違う表情。
「どうしたの大和。大丈夫?」
「……ごめん。俺は、先に戻る」
「え? え、ちょっと、大和!」
気づけば、大和は立ち上がっていて。それから止める間もなく、走って石段を下りていった。
わたしは咄嗟のことに追いかけることもできなくて、立ち尽くしたまま、空振った手を誰もいないとこに伸ばしてみるだけ。