「ねえ大和」


声をかけても、瞼は開かなかった。でも「ん」と短い返事が聞こえる。

わたしは、小さな茶色い明かりの下で、幼なじみの顔を見下ろしている。


「あんた、何かあったの?」


変だとは思っていた。わたしに会いたくなったからなんて、そんなロマンチックな理由で会いに来るようなやつじゃないし。

今日、お父さんと話しているときの表情もなんだかおかしかった。

たぶん、自分でも気づいていないんだろうけど、表情の少ない顔の中に、それでもいつもと違うナニカがある。

何もないわけないんだ。

もうロクに顔だって合わせないような関係だけど、小さな違和感に気づかないほど、遠くなったつもりもない。


「…………」


大和の目が、ゆっくりと開いた。

でもそれは、わたしのことは見ないまま。小さく唇だけが動く。


「別に、何もない」

「……ふうん。ならいいけど」


わたしが呟くと、大和はまた「ん」と短く返事をして、寝返りを打った。

こっちを向いた後頭部を、指先だけで撫でてみる。短いけど、ボウズと言うには伸びた髪は、思ったよりも柔らかくて、こいつが猫っ毛の持ち主だったことを思い出した。

割とカタい髪質のわたしは、その柔らかい女の子みたいな髪の毛がうらやましくて、なんだか腹が立ってよくむしっていたのはいい思い出。


「ひっぱるなよ」

「うん」


わたしには無いものばっかり持っている幼なじみ。

いつもわたしが追いかける側で、でもどんどん前へ進んじゃうから、いつまでも追いつけなくて、とうとう追いかけるのをやめた背中。


大きく大きく見えるし、実際にわたしよりもずっとずっと大きいのに、本当は、とても小さな背中。