家に帰ると、大和を見つけたお母さんが、アイドルにでも会ったみたいなキイロい声を上げた。
「ちょっとやだ大和くん! 久しぶりねえ! あらあまた随分かっこよくなって」
「お久しぶりです、おばさん」
「もう千世。大和くん来るなら言ってよ。おいしいお菓子買ってきておいたのに」
「わたしも知らなかったんだって。さっきそこで会ったんだよ」
サンダルを脱ぎ捨てて先にリビングに入った。発見したテーブルの上のおせんべいをかじりながら、クーラーの温度を1度下げる。
「大和くん、いつまでこっちにいるの?」
大和と一緒にリビングに来たお母さんが訊ねた。
「……すぐに、戻るつもりです。顔見に来ただけなので」
「あら、やっぱり練習忙しいの?」
「今はお休みなんだって」
代わりに答えると、大和はちょっとこっちを見て、お母さんは表情をぱあっと明るくした。
「じゃあ時間あるのね! だったら夕飯食べていって。お父さんももうすぐ帰ってくるし」
「でも、申し訳ないです。急に来たのに、夕飯まで頂くなんて」
「何を水臭いこと言ってんの。大和くんだったらいつでも歓迎だってば」
そう言って、お母さんはあっという間にキッチンへ向かってしまい、残された大和はちょっと困惑顔。
そうして助けを求めてわたしの方を向くから、わたしはおせんべいを噛み砕きながら、首を横に振った。
「うちの親、あんたのこと大好きだから、たぶん食べていくまで帰してくれないと思う」
「じゃあ……うん、お言葉に甘える」
「それがいいよ」
大和は困ったようにぎこちなく笑いながら、テーブルのわたしの向かいに腰かけた。お皿の上のおせいべんを勧めると、左手で1枚とって、パキリとかじった。