「悲しい?」
琥珀色の目がわたしを見た。「何が」と、小さな声で常葉は言う。
「安乃さんが亡くなったこと。悲しい?」
「いいや」
「悲しくないの?」
「人とは、死というものに対する概念が違う。死んだことを、悲しいとは思わんよ」
「じゃあ寂しい?」
さっきは、間を置かずに返ってきた返事が、今度は少し、時間がかかった。
常葉は表情を変えないまましばらく黙って、それから「そうだな」と呟いた。
「これまでに幾度となく別れを見てきた。幾度となく見てきたのに、いつまでも慣れはしない。なかなか、心がぼんやりしたまま動かないのだ」
横顔からはみ出たまつげが、きらきら光って揺れていた。
遠く空じゃなく、下を向いているそれを見ながら、なんだ、そっか、って思った。
いつだって何を考えているかわからない神様は、今だけは、わたしと似た心でいただけ。
おんなじだったんだ。常葉も、やっぱり、寂しいと思うんだね。
「わたしさ、この間駅前で手相占いしてもらってね」
顔を上げた常葉と、もう一度目が合う。
「いろいろボロクソ言われたんだけど、唯一良いこと言われたのが、すごく長生きするってことだったんだよね」
「へえ」
「だからたぶん、わたしまだ当分、いなくならないから。大丈夫」
そりゃそのうち死ぬけど。とぼそりと付け加えたら、きょとんとしていた常葉がふっと笑って「そうか」とひとつ呟いた。