「わたしね、この間安乃さんに会ったよ」
垂れかけたアイスをぺろっと舐めた。同じタイミングで、常葉も同じことをした。
「昔、常葉に叶えてもらった願い、教えてもらった」
「そうか」
「安乃さんが持ってた今の夢も教えてもらったよ」
わたしがアイスを食べ終えたとき、常葉のはまだ半分くらい残っていた。
この、半分になってからが食べるのが難しいらしい。常葉は下の方のアイスをぼとりと落としてしまうこともよくある。
「今日は落とさないようにね」
「まかせろ」
やけに慎重にかじったところで、常葉が「ん?」と首を傾げた。
「千世。なんか書いてあるぞ」
「なに?」
見ると、常葉のアイスの棒に『ア』という文字が見え始めていた。まじか。
「ちょっとそれ、アタリじゃん! あたったんだよ常葉」
「あたった? それは困る。このあと腹を下すというのか。恐ろしいな」
「そっちのアタリじゃなくてさ。これ、買ったお店に持って行けばもう1本もらえるんだよ」
「それはすごいな。店の経営が心配だ」
どうにか最後のひとかけを食べ終えて、すっかり丸裸になった木の棒。常葉は、『アタリ』の3文字が書かれたそれをじっと眺めてから、わたしが持っていた外袋にしまった。
「大事に食べろよ。貴重なあたりだ」
「あ、うん」
てっきり「それで今すぐもう1本食わせろ」とでも言うかと思ったけど、返ってきたのはわたしの予想と違ってて、ちょっと驚いた。
なんだか変なの。思いつつ、覗いた横顔は、いつもと変わらない涼しげな顔。
何を考えているのかなんてよくわからない、飄々とした神様。
昨日一昨日と、わたしに無断で欠勤しやがった、人が好きな神様。