スカートの裾を絞りながら、目の前のぼろいお賽銭箱をなんとはなしに見た。

そこにかすれた文字で「常ノ葉神社」と書かれている。

……トコノハ? ツネノハ? よくわかんないけど、ここの名前みたいだ。


「……ジョウノヨウ、なわけないか」

「トキノハだ」


心臓が止まった。

止まった気がした途端、今度は、破裂するかと思う勢いで鳴り出した。


振り返ったところに知らない人がいた。

息を止めてしまうくらい、瞬きを忘れてしまうくらい。

夢みたいに綺麗な、男の人。

その人は、なんともすました顔で、わたしを見下ろしていた。


「常ノ葉神社。それがここの名だ。覚えておけ、娘」



──今もうるさい雨の音。

でもそのときだけは、とても世界が静かになった。


空気が変わった。冷たいような、温かいような。

ゆるりと流れ続ける時間が、まわりと動きを変えたような。


そんな、なんだか、不思議な感覚。


「…………」


ぼうっと、見ていた。

開いた口がふさがらないって、たぶんこのことだ。

わたしはぽかんと口を開けたまま、そのくせ空気ひとつ漏らせないまま、その人のことを見上げていた。


……ていうか、まさか、人がいたなんて。