ゆっくり、静かな時間が過ぎていく。
セミの声が遠くで聞こえる。冷房はないのに、不思議と、蒸し暑さは感じなかった。
お庭には、背の高いひまわりが生えていた。
でもまだ、十分に咲くには少し早い。もうあと数日もすれば大きな花を咲かせて、めいっぱい太陽に顔を向けそうだけれど。
安乃さんはそれを眺めていた。穏やかな表情で、とても大切な人を側で見つめているみたいに、それを見ていた。
「私ね」
また、ゆっくりと瞳がわたしに向く。
「私、たった一度だけ、常葉さまにお願いごとをしたことがあるんです」
「願いごと……」
「ええ、そうなの。私はね、とても大切な夢を、常葉さまに叶えてもらったんです」
安乃さんは、何かを思い出しているように、少しだけ目を閉じた。
「常葉から、聞いたことがあります。これまでに一度だけ、安乃さんの願いを叶えたことがあるって」
そのたったひとつの願いが生涯の夢だった。長い長い人生の道筋を、真っ直ぐに示し続けた願い。
「あら、神様、そんな大昔のこと覚えてくださっていたんですね」
「つい最近のことみたいに話していました。たぶん神様の常葉にとっては、本当についこの間のことなんだろうけど」
「そうね。私にとっては、顔がしわくちゃになっちゃうくらい、長い長い間だったけれど」
安乃さんは、ひとつ穏やかに息を吐くと、部屋の中の一点に視線を移した。
そこ振り返ると、低い棚の上に、ふたつの写真立てが並んでいた。