言葉も出なかった。
驚きすぎて。だって、そんなことを、言われるなんて思わなくて。
安乃さんは常葉が神様だって知ってたの?
常葉は、知られてないって言ってたくせに。
「な、なんで……知ってるんですか」
「あら。やっぱりそうなんですね」
掠れたわたしの声とは裏腹に、嗄れ気味の安乃さんの声色はなんだか楽しげな様子だった。
ぽかんと口を開けたままのわたしに向かって、安乃さんは「だってね」と言う。
「よく姿を見かけて、仲良くおしゃべりをさせて頂くようになったのはつい最近だけれど、あのお姿は、ずっと昔にも、見かけていたんだもの。
あのときと変わらない綺麗な姿のまま、いつまでもあの神社にいらっしゃるのだから、そっか、あの人は神様なんだって」
「そ、そうなんですね……」
バカ、と頭を抱えたくなった。
そりゃあ普通じゃないって気づくよ。何十年も変わらないままで人の前に出るなんて。下手すりゃ町の七不思議だ。
昔にも常葉が姿を見せていたなんて知らなかった。きっと、常葉は、それで怪しまれるなんて考えもしなかったんだろうな。
あの神様は、どこか抜けているんだから。
「千世さんも知っていたのね。あの方が神様だってこと」
「は、はい……。あの、最初はものすごく疑ったんですけど、ちょっと色々信じざるを得ないことがあったりして、なんやかんやで……」
「ふふ、面白そうですね」
「う……わたしにとっては、全然面白くはないんですけど」
むしろ最悪な下僕日々の始まり。
だけどそれを話したら、きっと安乃さんに笑われそうだから、ここではその話は心に秘めておくことにした。