だけど。


「ねえ、千世さん」


安乃さんは、そんなわたしにも、とても優しい顔で笑ってくれる。

横顔を照らしている日の光は、さっきまでわたしが浴びていたのと違うものみたいに、柔らかくこの場所を暖める。


「ちょっと、変なこと訊いていいかしら?」

「……変なこと、ですか?」


首を傾げると、安乃さんは少し笑みを深くした。


「もしも見当違いだったなら、馬鹿なこと言ってるって笑ってくれていいですから」

「はあ……なんでしょう」

「あのね、常ノ葉さんにいつもいらっしゃる、綺麗な男の人」

「常葉のことですか?」

「あら、トキワさんと仰るのね。そう」


クスクスと笑う安乃さんは、その瞬間だけ、不思議と、わたしと歳の変わらない女の子みたいに思えた。

安乃さんの若い頃なんて知らないし、想像だってできないのに、何十年もずっと昔の安乃さんの姿が、そこに浮かんでいるような気がして。


きっといつか、常葉が見てきた、わたしの知らない時代の姿。


「ねえ、千世さん」


安乃さんが、もう一度わたしの名前を呼んだ。そして言う。


「トキワさんは、神様なんでしょう」