予想以上に立派なお宅に入って、長い廊下を進んでいった先。

お庭に面した日当たりの良い静かな和室に、安乃さんはいた。


「お母さん、千世さんが来てくださったわよ」


マダムが声をかけると、安乃さんは振り向いて「あら」と楽しげに声を上げた。


「千世さん、こんにちは、お久しぶりですね」

「はい……こんにちは」

「お母さんが常ノ葉さんに行かなくなったから、心配して様子を見に来てくださったって」

「そうなの。わざわざ、ありがとうございます」

「いえ……こちらこそ、押し掛けちゃってごめんなさい」

「いいのよ。来てくれて嬉しいですから」


買い物に行くからと、席を外したマダムを見送ってから、わたしは安乃さんのすぐ隣、用意して貰った椅子に腰かけた。


すぐに言葉が出てこなかったのは、どう声をかければいいか悩んだのと、声が出ないくらい、驚いてしまったせい。


お日様が、暖かく射す庭を眺めている安乃さんの横顔は、前に見たときと随分印象を変えていた。

くぼんだ瞳と痩せた頬、少し嗄れた声。

急にいくつも歳を取ったみたいだった。うちの死んだおじいちゃんが、病気になってから、同じようになったのを、思い出す。


「千世さん」


呼ばれて、こっちを向いた安乃さんと真っ直ぐに目を合わせた。

安乃さんが少し体を起こすと、寝ていたベッドが軽くきしんだ。