「ああ、やっぱり」
門の向こうに、前に会った、安乃さんの娘さんらしきマダムがいた。
前と変わらないお上品で、かつ人なつこい笑顔の人。
「あ、こ、こんにちは……」
「はい、こんにちは。どこかお出かけの途中かしら?」
「あ、えっと……」
「それとももしかして、家にご用とか?」
マダムが微笑んだまま、こてんと首を傾げた。
どうしようか、と考えたけれど、結局こくりと頷いた。
「最近、安乃さんが神社に来られないので、何かあったのかなあとちょっと心配になっちゃって」
「あらあら、そうだったの」
変に思われるかとも思ったのに、マダムは少しもそういう顔はしなかった。
ちょっとだけ眉を下げて笑いながら「ありがとう」と、わたしに言った。
「母を心配してくれたのね。そうね、常ノ葉さんにも、行けていないから」
「あの……」
「千世さん、まだお時間はあるかしら? よければ上がって行って」
前に、安乃さんに言われたときにはお断りしたお誘いだ。
今回だって、別に来る予定すらなかったんだから、断ったってよかったんだけど。それでも断れなかったのは、たぶん、マダムの表情が、少しだけ変わっていたからだ。