ちょっと油断した隙に常葉がいなくなっていたので、わたしはかなりぷんすかしながら手水舎の掃除をしていた。
面倒なことは大嫌いだけど、やり始めるとつい凝ってしまうタイプなのは自分で自覚している。
ゴシゴシ磨いた水盤は新品みたいに綺麗になって、水も足場も、ゴミひとつない快適な空間に仕上がった。
「ふう……完璧……!!」
我ながら見事なお掃除テク! ここまでやれれば常葉にも文句は言われないはず。
常葉はすぐ小姑みたいに「……本当にしたのか、掃除」って冷めた目で見てくるけど、もしもこれでそんなこと言ってきたら、この水盤でミドリガメ飼ってやるんだ。
「イビリに屈してなるものか!」
汗だくのおでこを手の甲で拭って、「よしゃー!」と空に雄叫びを上げた。
青い広大な空に、拳を握った両手を突き上げる。うん、爽快。
「…………」
たったひとりで、こんなことをして。恥ずかしくないそのわけは当然、周りに誰もいないからだ。
常葉がどこかに行ってから、この神社にはわたしひとり。セミがジリジリ鳴いているだけで、あとはしんと静かだ。
手水舎の屋根の日陰に隠れて、そこにじっとうずくまった。人の気配のない神社。
静かで、わたししかいなくて。
──きっといつかは賑やかだったのに。
今は誰も来ない、小さな、町の神社。