今は青く晴れ渡っていて、花火なんて上がるわけないのに、なんとはなしに空を見上げてみた。

雲ひとつない夏の空はとても近くて、手を伸ばせば届きそうな気がして。

でもそんなはずはない遠い遠い高い空に、みんなは、夢を願う。


「…………」


何度か見た、不思議な光景を思い出した。

ぼうっと色づきながら空へ舞い上がる“願い”の光。


あれはまるで花火みたいだったなあと思う。

たった一筋の光だけれど、輝いて、色を付けて、空へ昇っていく姿は、小さい頃にお祭りで見た打ち上げ花火みたいだった。


きっと。

短冊に書かれたたくさんの願いを、全部空に届けたなら。それこそ本当に、花火みたいに見えるだろうな。


願いごとひとつ、小さな短冊に乗せて。

大切に紡がれた言葉と心を、ひとつひとつ、受け取っていく。


「常葉は、たくさんの人の願いの言葉を、受け取ってきたんだね」


空に手を伸ばしてみながら、口に出していたことにも気づかないくらいに、何気なく、そう言った。

見なかったから、どんな顔をしていたかは知らないけれど、常葉はいつもどおりの涼しげな口調で、


「そうだな」


と呟いた。