電波になったわたしの言葉が、大和のケータイへ届いていく。
届ける言葉と、それを受け取る人。
パタン、と畳んでケータイを閉じて、スカートのポケットにしまった。
ぬるい風にざわざわと木が鳴る。空にスーッと、飛行機雲が線を引いた。
「ねえ常葉。ここって昔、七夕祭りやってたんでしょ」
常葉の視線がこっちに向いた。琥珀色の切れ長の目が、2回まばたきをした。
「よく知っているな。千世が生まれるよりも随分前に、やらなくなってしまったのだが」
「友達から聞いたんだよ。その子のおばあちゃんが言ってたんだって」
「そうか」
寂しげな顔をするかなと思ったら、意外にもその様子はかけらもなく。
常葉はふわりと笑うと、伸ばした人差し指で手水舎の隣の辺りを指した。
「あそこにな、いくつもの笹を立てて、皆が願いを書いた笹を飾るのだ。少ないが出店も並んでいた。歌を歌い踊りを舞い、時には町外れの川岸で花火を打ち上げることもあった」
「花火。結構盛大だね」
「花火の打ち上げのみなら今もやっているぞ。夏の半ばになれば今年もやるはずだ」
「そうなんだー。去年もやってたのかな。知らなかった」
去年の夏休みは、甲子園とかおばあちゃん家とかいろいろ行ってたから、その間にやっていたのかもしれない。
まだ、この町のことを、今よりも知らなかった頃だ。
この神社のことも、まったく知らなかった頃。