ケータイをパタンと閉じた。ひとつだけ付けているストラップが、手のひらから落ちてプランと揺れる。


「なんだ、返事をしないのか」


常葉がちょっとつまらなさそうに呟く。


「うん。試合終わったとこなら、どうせすぐミーティングとかするんだろうし、あとで送るよ」

「だが返事を待っているかもしれないだろう。すぐ送らねば」

「待ってないって。いつものことだし。カレシカノジョじゃないんだから、そうすぐ返さなくても」

「いいやだめだ。今すぐ返事を書くんだ」

「ええ?」


どれだけ言っても常葉は「早く返せ」の一点張り。

何をそんなに必死なんだろう。わたしがいいって言ってるんだからいいに決まってるのに。


「めんどくさいし、あとでいいってば。あとからちゃんと返すからさ」

「そうかわかった。お前がやらないと言うならば」


一体何がわかったのか。常葉がきりっと、わたしを見た。


「お前がやらないならば、俺がやろう」

「は?」


ぽかん、と口を開けるわたしの目の前で、きらきらと目を輝かせている常葉。その視線はじっと、わたしのケータイに向けられている。

……なるほどそういうことか。


「いやあんた、わたしに返事させることよりも、自分でメール打つことのほうが目的でしょ!」

「何のことだ」

「今のあんたの顔、鏡で見せてやろうか」

「俺はいつも美しい。鏡など見ずとも知っている」

「こ、こいつ……!」


常葉がこてんと首を傾げた。むしっとした空気の中、銀の髪が涼しげに揺れる。

それをしばらくじいっと睨んでから、「わかった」とため息混じりに呟いた。

わたしって案外心広いなあと思いながら、顔をパアっと明るくする常葉にケータイを渡した。