「ど、どうした千世。大声は驚くからだめだ」
「うるさい! こうやって寝てるだけでも暑いのに、アレやれコレやれってできるわけないだろ!」
「しかし……千世の務めだろ……」
「別にわたしだけがやらなきゃいけないことじゃないでしょ。そもそもここは常葉の家なんだから、たまには自分でやれ!」
「な、なに……!?」
「自分はぐうたらしてばっかりのくせに! 今日はわたしも寝る! こんなに暑いのに動けるか!」
どすん、とふたたび寝転がった。たったそれだけの動作なのに体が一気に熱くなる。
「ああ……叫んだらまた汗出た」
この位置は屋根の日陰でちょっとだけましだけど、それはあくまでほんのちょっとで、やっぱり暑いものは暑い。
木が多いからセミも多くて、四方八方から大合唱が響いている。ノイローゼにでもなりそうだ。おまけにきっと、これからもっと増えてくる。
「怒鳴らなくてもいいだろうが……」
横からぽつりと声がした。
見ると、常葉が体育座りで膝を抱えて、顔を埋めていた。
「そんなに嫌なら来なければいいジャン……」
「毎日来いって言ったのは常葉でしょ」
「別に嫌々来て欲しくはない……」
「ここに来るのは嫌じゃないよ。暑いのが嫌なだけ」
言うと、常葉はちょっとだけ顔をずらしてチラリとわたしを見た。
「……本当か?」
うわ、こいつめんどくせ。って思ったことは、顔には出たけどギリギリ声には出なかった。
「ほんとほんと」と適当に答えながら、わたしはもう一度体を起こした。