ノートの隅っこを切り取ったメモに、約1週間悩み続けている問題がドシンと私の背中に乗っかるのを感じた。


……見ましたとも。
その日のうちに、間違いなくノートを受け取って、内容も確認した。

だからこそ、返事ができないんです。

そんなこと、瀬戸山は知るはずもない。私が無視をしているか、それともノートに気づいていないかどっちだろうと思っているくらいだろう。


“松本 江里乃だろ?”


……だって私は、江里乃じゃない。

違います、と今更どう伝えればいいの。

友達から、なんて返事をしてしまったのに、人違いですなんてとてもじゃないけど言えない。

かといって知らんぷりしてこのままやりとりを続けるなんてもっとできない。


……どうしてこうなってしまったのか。


はじめから名前なんてなかった。そのときに聞けばよかった。“私宛のものですか?”と、ちゃんと確かめたらよかったんだ。


チャイムの音ではっと顔を上げると、先生が「じゃあ今日はここまで」とチョークを置く。

気がついたら1時間の授業が終わってしまった。
今日も全く頭に入らないままだ。


「最近どうしたの?」


悩みすぎて体が重い。
けれどそんなこと告げることもできずに「ちょっと、寝不足かな」と心配して声をかけてくる江里乃にへらっと笑った。

あれから、江里乃の顔を直視できない。

席を立って、放送室に向かおうと出て行く途中、ちらりと振り返ると私が座っていた席に座って、江里乃が私の荷物をまとめてくれていた。