家に帰っても、瀬戸山のあの表情が忘れられない。あの言葉が忘れられない。

自分であんなふうに考えることは難しいけれど……嬉しい気持ちには違いない。思ったことをそのまま口にしてくれる瀬戸山だからこそ。

あんなふうに考えてくれるなんて。あの瀬戸山が。絶対に私みたいなタイプは苦手だと思っていたのに……。前の合コンでは確かに怒っていたのに。


「ありがとう」


ひとり、瀬戸山との交換日記に向かってつぶやいた。
聞こえるはずもないのに。それでも言わずにはいられない。

嬉しい気持ちがずっとなくならなくて、ふわふわ浮いているみたいだ。

瀬戸山のことを知っていく。
思った以上に素直な人で、思った以上によく笑う。そして、優しい。


『映画おもしろかったね』


そんな返事を書きたくなる。

また映画に行ったりしたら、きっとなにを見るかという話になるだろう。瀬戸山があれとこれがいいといえば、私はきっとまたどちらも選べない。

だけど、瀬戸山は文句を言いつつも、受け入れてくれるんじゃないかと思う。


——都合のいい、自分勝手な想像だ。


もっと、話をしてみたい。
瀬戸山のあの素直さに触れて、笑っていたい。

気兼ねなく趣味について話をして、文句を言われても、笑顔でいられる人。


『今度、一緒に映画に行こう』


そんな言葉を黄色のペンで書いて、苦笑をこぼしながら黒色のペンで上から絵を書いて隠した。


「ウソだよ」


だってそんなの、言っていいわけないもん。わかってる。
ノートの中の“私”は“江里乃”でなくちゃいけないんだから。

これを受け取った瀬戸山は、きっと笑顔で捲る。
想像するとちくりと胸が痛むのも、ウソだから。