***
次の日。朝目が覚めると顔が濡れていた。
海斗の夢を見た日はいつもそう。
たくさん楽しい思い出はあったはずなのに、決まって私はあの日の夢ばかりを見る。
みんなで朝早く出掛けて、車の中で海斗とお菓子やアイスを食べて過ごして。そして窓からダイヤモンドのようにキレイな川が見えてきて。
ふたりで窓を全開にして叫んだことは昨日のことのよう。
本当はあの日、川に行くのは中止にしようって言ってた。
理由は前日に私が体育の授業で足を痛めて右足がわずかに腫れていたから。
バーベキューもするし、せっかくだから治ってからにしようと家族は言ったけど、それを無視して行きたい!とワガママを言ったのは私。
そして足を痛めたまま、川遊びをしたのも私。
だれかのせいじゃない。原因はすべて私なの。
だからどうして私の代わりに海斗が犠牲にならなきゃいけなかったのか。
どうしてどうしてをずっと繰り返している。
1階に下りて、リビングのドアノブに触れる寸前。中からお母さんの声が聞こえた。
『お花ありがとう。うん、うん』
電話でだれかと話をしている。
テーブルの上に黄色い花が置いてあって、毎年海斗の命日が近づくとお祖母ちゃんが遠くから花を送ってくる。
お祖母ちゃんは優しくて、海斗のこともすごく可愛がってくれて。だから海斗が死んだって知らせた時、足が悪いのに飛行機で飛んできて。
眠っているような海斗を見てお祖母ちゃんは泣き崩れた。
ねえ、どうしてなの。
海斗じゃなくて私を連れていってくれたらよかったのに。