「あれ、すずどこ行くの?」
須賀の競技まであと15分。
みんな最初は会場の雰囲気に圧倒されていたけど、目の前で選手たちが泳ぐ姿を見てすっかり見入っている様子。
「飲み物買ってくる」
私は紗香にそう言ってひとりで階段を降りた。
建物の中はやっぱり涼しくて、お目当ての選手の出番がくるまで避難してる人もたくさんいる。
私は自動販売機でミネラルウォーターのボタンを押して、飲み物を取り出したところで「きゃー!」という悲鳴にも似た声にビクッとなった。
な、なに……?
振り向くとそこには女子の人だかり。
その真ん中には頭ひとつ飛び抜けた圭吾くんがいた。
そっか。考えてみれば圭吾くんもこの大会に出るんだよね。サインとか求められちゃってるし、本当に芸能人みたい。
「あ……」
その時、圭吾くんが私に気づいた。
この間のこともあるし、なんとなく気まずいけど。圭吾くんは女子たちの写メをやんわり断って私のほうに歩いてきた。
「すずちゃん来てたんだ」
「う、うん。クラス全員参加だから」
「ああ、恭平の応援ね」
あの事故が嘘のように圭吾くんは普通だ。
まあ、これから大事なレースがあるし、そんなこと気にしてる場合じゃないか。