須賀の感覚なんて須賀にしか分からないけど、その2位っていう賞状が欲しくてたまらない人だっていると思う。
「その熱意が勉強にも向けばいいのにね」
イラッとする私の可愛げのない言葉でも、須賀はやっぱり笑う。
「勉強は好きじゃないからムリだな」
「だからいつも寝てるんだ」
「あれは体力温存。放課後のきつーい練習のため。それに朝練で100メートル3往復してりゃ眠くもなるんだって」
「勉強しなくても須賀は将来有望でしょ?」
だから許される。
なにかひとつ、ずば抜けた才能さえあれば周りからは特別扱いされるんだ。
須賀はまたジャージを羽織って、濡れた髪を犬のように左右に振った。そして男子更衣室ではなく、足はトレーニングルームと書かれた部屋へ。
「そうあるために頭は水泳のことばっか。今日はありがとう。外暗いからヘンなヤツに付いていくなよ」
あの体が1日2日で作られたものじゃないことは私にだって分かる。
私が水泳部の扉を閉める頃には中から重い機具を持ち上げているような鈍い音が建物に響いていた。