プールサイドに上がってきた須賀は乱れた息を整えて私のほうに歩いてきた。
タイムを伝えようと思ったのに須賀は私の口よりも早く「54秒台だろ?」と少し苛立ったように言った。
……せっかく計ったのに自分でわかってるなら私がいなくてもよかったじゃん。
なんて、嫌味のひとつでも言いたいのに水泳をやっている須賀は真面目すぎて言えない。
「付き合ってもらって悪かったな。ちょっと細かい泳ぎ方を見直したら逆にタイムが上がらなくてさ」
須賀は7月の半ばに関東大会に出るし、そこでいい成績が残せれば次は全国。
全国大会なんて誰でもいけるわけじゃないのに、須賀はそこに行くのが当たり前になっている。
そのプレッシャーなんて、私には分からない。
「でも県大会2位だったんでしょ」
夏前にやった県大会。もちろんこれは私が得た情報じゃなく、みんなが言ってたから知ってるだけ。
「1位じゃなきゃ、2位も3位も4位も同じだよ」
「ふーん。だから賞状も持ち帰らないんだ」
「そ。1って数字じゃなきゃ意味ねーから」
須賀の教室の机の中にその賞状が丸めて押し込まれていることは隣の席になってから気づいた。
……というか偶然見えたが正しい。