――トントン。

そんな水泳部の建物を見つめていたら、ガラス窓を叩く人影が。中には須賀がいて何故か私のことを手招きしている。

なんだろう、と思ったけど面倒ごとに巻き込まれそうな予感がしてシカトした。


「ちょ、呼んでるのに普通帰る?」

慌てた須賀が青と白の水泳部のジャージを上だけ羽織って、私を呼び止めに走ってきた。


「その格好恥ずかしくない?」

昨日は水泳部の玄関付近だったからいいけど、今はもう随分と急ぎ足で歩き進めてきた。

学校の敷地内だから許されるけどそうじゃなかったら普通に警察呼ばれるよ。


「恥ずかしいよ。だから早く来て」

「なにが」

「いいからちょっと」

須賀は力強い手でグイグイと私の手を引っ張っていく。


ああ、今日ってツイてないのかも。

朝からうだるような暑さだったし、スマホを忘れるような古典的なミスに最後は厄介な須賀に捕まるという……。

そして私は無理やり水泳部のプールに強制連行された。


高い天井にゆらゆらと揺れる水面。
やっぱり独特の塩素の匂い。

中は暑すぎず涼しすぎず快適な室温のはずなのに、私はなんだか息苦しい。

私の気持ちなんて知らずに須賀はジャージを脱いでストレッチをはじめた。そして……。


「タイム計ってくれない?」

「は?」

「100メートル」

須賀はそう言って黒いストップウォッチを私に持たせた。


「な、なんで私が!他の人に頼めばいいでしょ」

「その他のヤツがいないから間宮に頼んだんだよ」


たしかに広いプールには須賀以外の部員はいない。

部活動の時間は終わってるのに須賀はもうスタート台に立ってるし……。

はあ、本当にツイてないな。