須賀と圭吾くんのタイムの差はまた0.1秒。

本当に尊敬するよ。

そんなギリギリの戦いをしながらも、あの場所へとまた戻る。あの歓声とあの瞬間から離れられなくて。


「追いかけられるのも悪くなかったけど、追いかけるのも悪くないね。ワクワクするよ。これだから水泳はやめられない」

圭吾くんの顔は悔しさももちろんあるけど、なんだか清々しい顔をしていた。


「圭吾くん。須賀のことライバルじゃないって言ったけど本当は?」

気づいていなかったかもしれないけど、私と話す時の圭吾くんはいつも須賀のことばかり。

そしていつだって少年のようにキラキラして、お互いに勝負をするのが楽しみで仕方ないって顔をする。


「悔しいけど死ぬまでライバルだよ。恭平は」

そう、その顔。


「森谷ー。もうすぐバス出るってよ!」

同じ高校の仲間が呼びにきて、圭吾くんは「じゃあ」と歩きだしたけれど、すぐに足は止まった。


「あ、そういえば公衆の面前で告白されたんだってね」

「え、そ、それは……」

なんで知ってるの?

いや、あんな大声で言われたんだから、知れ渡らないほうがおかしいか。


「そんなことできるのって恭平ぐらいだから、それも含めて俺の完敗かな。じゃあ、またね。すずちゃん」

圭吾くんはそう言ってバスへと消えていった。


きっと圭吾くんもまた、明日から。

いや、これからすぐにまた泳いで須賀を追いかける。

ずっとふたりにはライバルでいてほしい。

それをできるなら近い場所で見守っていけたらいいな。