圭吾くんはもう着替え終わっていて、肩からカバンをかけていた。有由原西校の専用のバスがロビーの前に停まっていたから、きっとこれからコーチや仲間たちと一緒に帰るのだろう。
「大会お疲れさま」
「うん。ありがとう」
深い言葉は言わなかった。
圭吾くんと会うのはあの駅前でランチを食べたとき以来。
――『恋愛するならすずちゃんがいいってこと。
どう?俺と恋愛してみない?』
あのとき交わした会話がよみがえる。
『私は、まだやらなきゃいけないことがあるから。それが終わらないと恋愛はできない』
『すずちゃん優しいな。俺とは恋愛できない、
でしょ?』
『………』
『知りたかったよ。もっとすずちゃんのこと。だけどそれを許してもらえるのはひとりだけ。負けたくないって思ってたのに仕方ないね』
そのあと圭吾くんは私のぶんのランチ代を出してくれて、最後まで紳士でとてもカッコよかった。
そして帰り際に圭吾くんが笑顔で言った言葉。
『でも負けないよ。水泳ではね』