ねえ、須賀は今どんな景色を見ているの?

大きな舞台で隣には越えなきゃいけない人がいて。

この沸き上がる歓声の中、その青い世界の中で、思いきり泳ぐのってどんな気分?


おかしいね。

須賀が泳いでいるのを見ると私も嬉しい。

あんなに苦手だったのに、あんなに大嫌いだったはずなのにさ。


どう考えても、どんなに理由を探しても。

私は須賀が好きだよ。


認めるよ。悔しいけれど。

もう、どうしようもなく。

須賀は私の大切な人。


「すず、須賀が……」

隣で紗香が私の腕を掴む。

折り返しの50メートルのターン。

前半トップだった須賀は圭吾くんに追い抜かれたまま、残り20メートル。

距離はちょうど指先ひとつぶん。


――『見えてたんだけどな……』

青空に右手をかざして、落ち込んでた須賀はもういない。


大丈夫。これは自信じゃない。

私がだれよりも須賀の速さを知ってるから。


「須賀っ!頑張れ!自分を信じて!!」

お腹からありったけの声で叫んだ。


バシャバシャッと水しぶきがあがる。

クロールをする右手が壁へと着いて、須賀と圭吾くんのタッチはほぼ同時。

ふたりですぐに後ろを向いて、電光掲示板を確かめる。

表示された名前は……。


【1着 須賀恭平 51秒46】  

その瞬間、ワー!と会場が揺れた。