その日の夜。


「すず、箸並べて」

台所に立つお母さんはサラダを盛りつけていた。

いつも仕事が遅いお父さんが早く家に帰ってきて、久しぶりに家族で晩ごはん。


「今日は食後にドーナツ食べようね。すずのお友達がわざわざ私のぶんまで買ってきてくれたのよ」

「そうか。すずは友達がいるんだな」

「いるよ、友達ぐらい」

お母さんが喋りだして、お父さんがそれに乗って、私が返す。こんなやり取りも最近はほとんどできていなかった。


忠告を聞かずに川に入った私を責めることはなく、今までどおり接してくれた。

私は親じゃないからふたりの気持ちは分からないけど、我が子を失うって相当なことだったと思う。

そんなしないでもいい経験をさせてしまったこと。

本当に本当に償っても償いきれない。

   
「……お父さん、お母さん」

私はそっと箸を置いた。


「ん?どうしたの?すず」

ふたりが私を見ている。


「……今さらかもしれないけどちゃんと言わせてほしい。海斗のこと、本当にごめんなさい」

あの夏から4年。

それが早かったのか遅かったのかは分からない。

でも過ぎていく時間にただ身を任せて、私は謝ることすらできてなかったから。